『最初の質問』
長田弘 詩
いせひでこ 絵
講談社
4月になりました。
新生活が始まるシーズンですね。
今月ご紹介する絵本は、大人の方に読んで欲しい絵本です。
新生活を迎え、緊張の毎日が始まる方、
新しい生活に慣れ、何か新しい感覚を探したい方、
日々の忙しさに、少し疲れを感じている方、
自分がしたいのは、こんな毎日だったっけ・・と思う方に
きっと響く一冊になると思います。
この絵本「最初の質問」は、
詩人、長田弘さんの詩に絵をつけて絵本にした作品です。
この詩は、中学校の教科書にも掲載されたことがあり
ご存じの方も多いかもしれません。
表紙のやわらかい絵が印象的ですよね。
このやわらかい絵が、詩をまとって私たちに「質問」を投げかけます。
今日、あなたは空を見上げましたか。
空は遠かったですか、近かったですか。
絵本のページを開くと、
このような質問が一つずつ私たちの心に語りかけます。
「そういえば、最近空をまったく見ていないなぁ」
「毎日、通勤しているのに、空を見上げる余裕がなかったなぁ」
「そういえば、今朝の朝焼けはきれいだったな」
などなど、本の質問に対する答えがふんわりと浮かんでくれば
心がわずかにリラックスし始めることでしょう。
光の美しさを連想させる、いせひでこさん(柳田邦男さんの奥様です)の
どこか抽象的でのびやかな絵も、より想像力をふくらませてくれます。
空を見上げること、風を感じること、鳥の声に耳をすませること・・・
忘れていたリズムが、私たちが住む世界の変わらない美しさが
今もそこにあることを思い出させてくれるのです。
現代の生活は、情報の渦に溢れています。
その情報がすべて脳に入ると危険であるから、
人間の脳は無意識に、今必要な情報以外をカットして私たちに見せていると
脳科学の本で読んだことがあります。
そういう日々を送っていると、
目の前の情報は、今人気のアレとか
しなければならないコレとかだけで埋まってしまい、
この絵本に描かれているような風景が
今も、傍らにあることを忘れさせてしまうのかもしれません。
ですから、この本のページをめくって、
一つひとつの「質問」に答えていくことで
すこしずつ、すこしずつ、
自分らしさを取り戻す、
という感想が多いようです。
それゆえに、新生活を迎える方へのギフトにも
選ばれる絵本でもあります。
冒頭に「大人におすすめの絵本」と書きましたが
ネットで読者の感想を拾って読んでみると、
お子さんに「読み聞かせている」というコメントにも出会いました。
この本のページをめくることで、
自分を取り戻せる、帰る場所がある。
それだけでも、小さな幸せになると、ぼくは思います。
あなたの傍らに、自分を取り戻す一冊を。
絵本が心をいやす存在になることを願っています。
最近の記事