『はちうえは ぼくにまかせて』
ジーン・ジオン 著
マーガレット・ブロイ・グレアム 絵
もり ひさし 訳
ペンギン社
強い風が続いたと思ったら、日差しの角度もわずかに高くなって
春らしい気候になってきました。
毎朝、わが家のベランダの草花たちに水をやるのですが
冬に葉が落ちた枝たちに、小さな小さなつぼみが宿り、
この季節には少しずつ膨らんできます。
毎年、それを楽しみにしています。
立ち枯れた植木たちと凍えて過ごした冬を乗り越えて
芽が出て花が咲くと、自分は水しかやっていませんが
なんだか、自分がとてもがんばったかのような錯覚に陥るのが楽しいんです。
草木を育てていると、学べることが多いです。
寒い間に見えないところで春の準備をしているところ。
逆境にいても、気づかないそぶりで空へ伸びているところ。
しなやかに風になびいているところ。
いつも、植物には元気をもらっている気がします。
さて、そんな緑が輝きを取り戻す4月。
おすすめする絵本はこれです。
「はちうえは ぼくにまかせて」は70年代にアメリカで描かれた絵本。
表紙には、植物の本とにらめっこの少年と、たくさんの鉢植え。
覗いている猫、眠っている犬。
なんだか、楽しそうな予感がする本です。
主人公の少年、トミーはある日、こう話します。
「ぼく、はちうえの せわを することにしたんだよ、ママ」
そして、気がつけば家の中に増えていくたくさんの鉢植え。
休暇で家を離れて、草花の世話ができない人々から
鉢植えを預かりはじめたみたいです。
ちゃっかりと、お金ももらっています。
日陰を好む植物、水をやりすぎてはダメな植物。
鉢植えの世話が得意なトミーは、しっかり面倒を見ていきます。
そして気がつけば、家じゅうが鉢植えだらけ。
リビングも食卓もお風呂にまで、預かった鉢植えが増えて行きます。
増えすぎた鉢植えをどうするのか、
トミーの奮闘と、そして見守る両親。
意外な展開が最後に待っています。
やわらかい絵も、あちこちに表紙にいる犬と猫が隠れていて
眺めているだけでも楽しめます。
この絵本は発売当時、日本では「アメリカらしい」と評されたようです。
確かにそうですよね。
許可もとらないで、植木を世話するバイトをはじめたトミーに
両親は叱ることもなく、そのゆくすえを黙って見守っています。
途中で苦言を呈しますが、それでも「困ったなぁ」という程度で
子どもの自尊心を傷つけたり、怒ったりはしません。
そしてまた、「ちょっと行き過ぎかな?」と気づいたトミーは、
自分で考えて、対処方法を実行して行きます。
「自己責任」と言葉でいうのは簡単ですが、
見守るのって難しいですよね。
その「見守る姿勢」が、本のなか全体にあふれていることが
じつはこの絵本のもう一つの魅力なのです。
そしてまた、そんな両親の想いをしっかりと受け止めたのか
最後までしっかり者としてふるまうトミーの聡明さ。
通常、よくできる子どもが出てくると、概ね憎たらしいもんですが(笑)
このトミーには、なぜだか惹かれるんですよね。
自分で決めていく人って、日常でもさわやかに見えたりしますけれど。
まさにトミーの、その責任感に惹かれるんだと思います。
タイトルを改めて読むと「はちうえは ぼくに まかせて」の意味が変わって見えます。
読む前は「はちうえ」の話かと思いきや、
これはアメリカ流の「まかせる」を伝える本だったのです。
自分の意志で動けていない時、任せたいのにうまくできない時、
いつもと気分を変えたい時・・・
きっと心に響いてくる本じゃないかと思います。
皆さんの心に残る一冊でありますように。
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