『さよならをいえるまで』
マーガレット・ワイルド 作
フレヤ・ブラックウッド 絵
石崎洋司 訳
岩崎書店
先月は「命の大切さ」を理解する絵本として、
猫の親子を描いた「あったかいな」を紹介しました。
猫派の人もいれば、犬派の人もいるということで
今回は同じテーマの「犬」の絵本のひとつ
「さよならをいえるまで」をご紹介しましょう。
前回は小さなお子さんでも受け入れやすい
「死を描かずに命の大切さを感じさせる」絵本でしたが、
今回はもう少し大きくなったお子さんが
「死や別れを受け入れる」ための絵本です。
じつは、絵本の世界には、これから体験するかもしれないことを
疑似体験させる作品も少なくありません。
誰もが、そこで予期せぬ体験への免疫を少しずつ重ねていきます。
絵本の世界には、この「死による別離」を描いた作品が
一つの確固たるジャンルとしてあり、
最近では大ヒットした「ママがおばけになっちゃった」や
「かないくん」なんかも記憶に新しいですし、
このテーマを扱った名作がたくさんあります。
この「さよならをいえるまで」は
オーストラリア生まれの絵本。
やわらかな線画が特徴的です。
主人公の少年「ハリー」は犬の「ジャンピー」が大好き。
いっしょに庭をかけまわり、おふろもベッドもいっしょ。
しかし、ある日、ジャンピーと会えなくなります。
海外の絵本らしいなと思うのは、
ここから男の子が「死」を受け入れるまで
お父さんはじっと見守るだけで
あくまでも本人の心の動きが静かにつづられていることです。
傷を癒すのは理屈ではなくて 時間を重ね、悲しみを受け入れることしかありません。 ページをめくり、主人公のこころにあなたのこころを重ねたとき 「受け入れる」ことの意味に静かに気づくことでしょう。 この言葉にしない、感じさせることこそ 絵本だから可能な疑似体験だと思います。
お子さんに「死」を伝えるというだけに限らず
喪失感を持った大人のこころも
きっと癒してくれる一冊になるでしょう。
立ち上 がって 前を向いて生きてい くために
悲しみとどう 向き合 向き合 うか。
さよならをいえ をいえ るまで、 どう 過ごすか。
さまざまな経験 が私たちのこころをつくって くれます。
最近の記事