『なみ』
スージー・リー 作
講談社
今年も夏が近づいて参りました。
梅雨明け時期も気になるし
夏休みどうしようと、そわそわしている方も
多いのでしょうね。
そしてきっと、休みがとれたら「海に行く」という方も少なくないでしょう。
あるいはお子さまが小さくて、しばらくは海はムリだなぁという
お母さんも多いのかもしれません。
今回ご紹介する絵本は、
海辺にて波とたわむれる気分を
静かに楽しめる一冊です。
しかも、この絵本。
なんと文字があるのは題名の「なみ」だけなんです。
詳しくは、またあとで説明しますね。
著者のスージー・リーさんは、
シンガポール在住。韓国出身のイラストレーター・アーティストです。
海外でいくつかの賞も受賞し、
世界的にも人気を博しているというこの絵本。
手に取ってまず驚くのは、そのアート的な美しさです。
まず、本のサイズからして、普通と違います。
下が福音館の「こどものとも」傑作選シリーズですが
見比べると、かなり横長なのがわかると思います。
青と黒でしか描かれていないのも、スタイリッシュで涼しげな雰囲気です。
冷蔵庫で冷やしたい・・・(←あくまでも個人の感想です)
2色印刷の絵本といえば、
このコラムでも紹介した「かさ」(太田大八)や
「およげないさかな」(せなけいこ)などがありますが
それらにも共通する、シンプルで静かな佇まいがあります。
ページをめくると、最初の扉のページには、
駈けてくる女の子の姿。
後ろにいるのはお母さんでしょうね。
女の子はまっすぐに、海辺に向かっています。
きっと、この日を楽しみにしていたのでしょう。
この絵本には、タイトルの「なみ」という言葉以外は
何も文字が書かれていません。
しかも、起承転結のようなストーリーはありません。
絵本の四角い誌面に広がっている絵の変化を読み取って
想像しながら、お話しを考えていく絵本なのです。
海辺に近づいた女の子。
しぶきを上げる水色の波。うごめく水面の迫力が伝わってきます。
後ろには、並んで立つ鳥たち。たぶん、かもめかな?
女の子は、汐のかおりを楽しんでいるのか、
波の音に耳を澄ませているのか、
目をとじて、海に向かい合っています。
ここからページをめくる度に、
< 女の子/ 波 / 鳥 >たちが
いろいろな変化を見せて行きます。
それを見ていると、文字がないのに
なぜか一緒にじぶんも海辺にいて、
海辺から見えている、人や自然のささやかな変化を
楽しんでいるかのような時間が過ごせます。
絵を観察して、動きを読み取るって、
まるで絵画鑑賞のよう。
う、この絵本はまるでアートを楽しむように
ページをめくる絵本なのです。
夏の木陰で、この本を片手にのんびり過ごすのも楽しそうですし
小さなお子様に、アートを感じていただくきっかけにもなりそう。
文字がないから読み聞かせはできませんが
「これ、何しているのかな?」と話しながら
いっしょにページをめくるのも楽しそうです。
大人が読んでも、「絵で読み解く」
自由さや気持ち良さを体験できます。
こんな美しい見返しのおまけもついています。
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