『なんにも できなかった とり』
刀根里衣 著
NHK出版
みなさま、あけましておめでとうございます。
久保です。
今年も、絵本コラムをどうぞよろしくお願いします。
さて、まっさらな2017年の始まり。
「今年をどんな年にしようかな」と考えた方も多いと思います。
年頭に、今年の抱負を考えた方も、そうでない方も、
「自分自身の可能性」を考える一冊として、
この絵本をご紹介します。
タイトルは『なんにも できなかった とり』。
ふわふわっとした、やわらかい絵が印象的です。
この本の主人公は、表紙に写っていることり。
ことりは、ずっと悩み続けます。
それは何と生まれる時から。
「みんなは 自分でからを割れるのに、ぼくには 割れない」
そして、生まれた後も
「みんなは 木の実をとれるのに、ぼくには とれない」
「みんなは スイスイおよげるのに、ぼくには 泳げない」
・・・などなど、悩みはとまりません。
何となく『みにくいあひるの子』を連想させますが、
あちらのお話しは、じつは鳥の種類が違っていたという
運命論的な結末ですよね。
でも、このお話しは、少し違います。
自分を嘆きつづけた「ことり」は、
この絵本の最後で、
自分にしかできないことを見つけます。
この最後のシーンが美しくて、けなげで、心にジーンときます。
額に入れて飾りたいぐらい、美しいシーンです。
ことりは、自分の考えと、がんばりで、その結末を迎えるのです。
著者の刀根里衣さんは、現在はイタリアのミラノで活躍中の絵本作家。
世界各地から注目されている作家さんですが、
じつはそのスタートは、単身でイギリスに渡った日から始まります。
仕事も見つからず、英語もまだ話せないという苦しい日々のなかで
自作の絵を見てくれたイタリアの編集者に見いだされ
絵本作家としてデビューします。
賑わう異国の雑踏。
自分だけが行き場所のない世界で、戸惑い過ごすうちに
進むべき道をみつける。
そう、まるでこの絵本の「ことり」のようです。
著者は、自分の姿を「ことり」に投影したのかもしれません。
表紙の帯に書かれている、吉本ばななさんのメッセージも印象的です。
「なんにもできないことの豊かさがキラキラあふれてくるようです」
「なんにもできない」って、普通は悪いイメージしかありません。
けれど、裏を返せば、まだまだいろんな可能性があるということ。
そこに気づくことで、自分の道が広がる・・ということですね。
そういえば「SEKAI NO OWARI」の曲にも、
そういう歌詞があった気がします。
さて「酉年」にも、新春にもピッタリなこの絵本。
新年のはじまりを迎える自分に、
今年新生活を迎える方へのギフトに、
『なんにも できなかった とり』が
新たな可能性を見つける「きっかけ」になるかもしれません。
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